若き “DIVA” LANA の20歳最後を飾る日本武道館公演に潜入
ヒップホップシーン史上最年少となる20歳での武道館公演を『Hypebeast』が独自レポート


4月1日、LANA(ラナ)による記念すべき初の日本武道館公演が開催された。『TikTok(ティックトック)』や各種ストリーミングでのヒットを重ねる一方で、「SUMMER SONIC 2024(サマーソニック 2024)」をはじめとする大型フェスにも抜擢され、Awich(エーウィッチ)らとともに世界的な音楽フェス「Coachella 2024(コーチェラ 2024」にも出演。その勢いはとどまるところを知らず、昨年のZeppツアーは各地でソールドアウトを記録。そして今回の武道館も、チケットは発売と同時に即完。この数年で、文字通り、彼女は日本の音楽シーンの中心へと駆け上がってきた。
当日はあいにくの雨模様。それでも8,000人を超える観客が足を運び、会場は早くも熱を帯びていた。目立ったのは、ギャル風、ダンサー風のファッションに身を包んだ若い女性たち。そしてキッズ層の姿も数多く見られたのが印象的だ。まるでLANAという存在を中心に、音楽とファッション、ダンス、自己表現が交差する“コミュニティ”が武道館に結集しているような雰囲気。彼女の作品が、カルチャーと共鳴しながらいかに多様な層の支持を集めているかを、改めて実感させられる。ステージには、アルバム『20』の世界観をそのまま具現化したようなポップでキラキラとしたセットが設えられ、まるで夢の中に迷い込んだような高揚感に包まれていく。
20歳という若さでの武道館到達は、ヒップホップ・シーンでも前例のない快挙だ。彼女のこれまでの道のりを知る者にとっては、その場に立つという事実だけで、胸がいっぱいになるだろう。『19』『19.5』『20』と続いたコンセプトEP / アルバムでLANAは、自身の葛藤や成長、時に苦しみを伴う困難を真正面から歌ってきたし、むしろ最近はネガティブな感情も隠さずに出す傾向が強まっている。そして、この日のライブでは、そういった彼女の魅力がダンスと歌によって実に生々しく表現されていたのだ。総括するならば、“多彩なミュージック / ダンスカルチャーの投影”と“痛みや快楽の両方を引き受ける歌”が見事に融合したパフォーマンスだったと言える。ジャンルを超えた身体表現と、LANA自身のリアルな語りが交錯し、単なるショーを超えた“物語”として立ち上がっていた。さて、以下にその内容をレポートしていこう。
ライブの幕開けを飾ったのは、“For Life”。待ちわびる観客の熱気を一気に切り裂くようにして、LANAがステージ下から現れる。這い上がるように登場するその姿は、まるで彼女のこれまでを凝縮したメタファーのようだ。
25までになる日本のDIVA ついにLANAが本気を出した? Mic一本で世界を飛ぶよ Haterたちの声は聞こえない 高みから見下ろしてるlife
この楽曲が持つメッセージ性の強さに、序盤から心を掴まれる。痛みや苦しみを隠さず、それでも自分の人生を肯定して前へ進む姿勢。そこにDIVAとしての覚悟がにじむ。華やかさだけでなく、内面の強さと傷跡こそが彼女を“DIVA”たらしめている。
続く“2021”では「1ミリも攻撃当たらない/負けてばっかだけどでもなに?」と開き直るようにリリックを投げ、さらに“NARANAI”では「What you talking about me? Like, あの子達みたいにならない」と、2000年代の空気を感じさせるビートの上で堂々たるスタンスを見せつける。生きづらさも受け止めながら、それでも自分らしくあろうとする彼女の姿に、多くの人が心を重ねたはずだ。
“PULL UP”では、なんとヴォーギングにインスパイアされたようなダンスで登場。メイクや衣装、動きに至るまで、クィアカルチャーからの影響が色濃く表れており、自由と自己表現への祝祭が体現されていた。キュートな振付によって、LANAの楽曲の跳ねるビートとともに、「私を見て」「私はここにいる」という強い意志がより一層伝わってくる。ギャルの日常を描写した楽曲も、そのようなダンスが加わることで一種の語り=身体を通したストーリーテリングに昇華されていた。
続く“MY LIFE”では、「2025年も、LANAち、自由にいかせてもらおうと思います!」という宣言から始まり、「うるさいわわたしらしく/いかせてもらうわMY LIFE」と歌い上げる。その後、転換中には“Twerk”でダンサーたちがトゥワークを披露。少しの時間も飽きさせない、このあたりのダンスパフォーマンスも見事だ。続く“Makuhari”では、「今ではここ立てる幕張」のフレーズが「武道館」へと変えられ、大きなシンガロングが巻き起こる。さらに“WE WHANT!!”では、LANAの世界を彩る華やかな衣装の7(なな)が登場し、ステージはさらに華やかさを増していく。
そこから一転、ダークで濃密なステージングへ。“Huh?”では赤い照明が舞台を染め、キャバレー風の演出の中にMaRl(マリ)が登場。札束が降る映像とともに、妖艶で背徳的な空間が出現した。続く“花・魅”ではMedusa(メドゥーサ)、E.V.P(イーヴィーピー)、IFE(イフェ)が参加し、観る者を惹き込む世界観が完成。視線の集中と空間演出、どちらも緻密に設計されており、LANA自身も思わず「めっちゃカッコよくない!?」と声を漏らすほどだった。
後半は、より内面に迫るようなパートへとシフト。「私はたくさん泣いたし、恋愛で傷ついたこともたくさんあります」と語ってからの“HATE ME”、“It’s okay”は、彼女の高音の伸びが胸を刺すように響く。“Almost 20”ではマイクの前で静かに立ち、どこか懐かしいメロディにのせて感傷を漂わせた。
そして、張り詰めた緊張感を生んだのが“Stronger”だ。暗転したステージの中央にAwichとLANAが現れ、照明を最小限に抑えた中で、お互いに真正面からラップをぶつけ合う。ヘイターに対する怒りも、自己肯定も、互いへのリスペクトも、すべてが乗った言葉たちに、客席は固唾を飲んで聴き入っていた。続く“Bad Bitch 美学”ではMaRl、“BASH BASH”ではJP THE WAVYが加わり、ステージは爆発的な盛り上がりを見せた。
続く“直線”も、圧倒的だ。「批判の声は称賛への切符/ほぼrape社会に中指上げ続けてもう3年目」というラップが鋭く突き刺さり、くらくらする。バラクラバをかぶったダンサーたちが軍隊のように統率された動きで登場し、匿名性・集団性という現代社会の圧力を象徴的に表現。このあたりの演出力は、武道館という舞台を得たことで、これまでより一段回クオリティが上がったように感じられる。
この日多数登場した客演の中でも、最も盛り上がったのがWatson(ワトソン)とLEX(レックス)だ。“Still Young More Rich”ではステージ両端からLANAとWatsonが歩み寄り、最後にはキスを交わすというドラマティックな演出で、客席から歓声が沸き起こった。また、LEXとは“明るい部屋”、“ティファニーで朝食を”をともに披露。LANAは「本当にどうしようもなかった私に、音楽やってみなって言ってくれたのはお兄ちゃんだった」と感謝を述べ、感慨深そうにステージを見つめていた。WatsonもLEXも、公私ともにLANAを支えるパートナーだ。生活のリアルと歌詞、楽曲が密接につながっている点がヒップホップやラップといったカルチャーの醍醐味のひとつだが、LANAはそれを最大限に取り入れ、ドラマティックなライブにまで昇華している。彼女が今、ヒップホップシーンから生まれたポップスターとして大きな支持を集めているゆえんだろう。
本編最後は“Street Princess”、“99”、そして“HERE”。「今日まで学校頑張ったのも知ってるし、バイト頑張ったのも知ってる、全部見てるよ」と観客に優しく語りかけ、「たまに、皆の愛が……今はやめてって思う時がある。でもこのライブがあったから、自分の性格のいいとこも悪いとこも見えた」と、自分を見つめ直す契機となったことを打ち明ける。そして、アルバム『20 +』の中でも彼女が最も好きだという未発表曲 “HERE”で締めくくり、「もっと声を聴かせて/ねぇみんな愛してるって言って?」と歌い上げた。
アンコールでは“For bbys”、“No.5”、そして最後は代表曲 “L7 Blues”がパフォーマンスされフィニッシュ。鳴り止まない拍手の中、次なる展開として初のアリーナツアーが発表された。10月5日に横浜アリーナ、11月3日に大阪城ホールという舞台だ。会場は歓声に包まれ、LANAのさらなる飛躍を確信させる幕切れとなった。
この日、LANAはこれまでで最も素の自分をステージに晒していたと思う。それは、彼女の最大の強みでもある。飾らず、背伸びせず、あるがままを見せること。それこそがLANAの武器であり、ファンが惹かれる最大の理由だろう。以前、本人も「私はファンに素を見せすぎてると思う(笑)」と語っていたが、まさにその赤裸々さが、多くの同世代の共感を呼んでいるのだ。年齢を冠したアルバムとともに歩む彼女の活動は、ひとりの女性の生きるドキュメントそのもの。LANAは、今まさに、“DIVA”という言葉の新しい定義を自身の生々しいパフォーマンスによって書き換えようとしているのかもしれない。これからも予測不能なDIVAとして、多くの人を魅了し続けていくに違いない――そんな確信を与えてくれるライブだった。この夜、私たちは確かにその最前線に立ち会ったのだ。
そしてこれは、LANAだけの物語ではない。苦しみながらも自分を表現し、つながりの中で生き延びようとするすべてのリスナーにとっての物語でもある。彼女が見せた言葉や歌、ダンサーたちによるパフォーマンスは、ステージ上だけで完結するものではなく、多くの観客の記憶に残り、多くの人へ受け継がれていくのだろう。LANAとは、それらも全て包括した、“生きた”DIVAなのだと思う。
20 at BUDOKAN
会場:⽇本武道館
住所:東京都千代田区北の丸公園2-3
日付:4月1日(火)
LANA “ARENA TOUR 2025”
会場:横浜アリーナ
住所:神奈川県横浜市港北区新横浜3-10
日程:10月5日(日)
会場:大阪城ホール
住所:大阪府大阪市中央区大阪城3-1
日程:11月3日(月)